第3章 市場戦略と市場構造
[市場構造の理論と実際3] 市場細分化の意義
マス・マーケティングから市場細分化へ
市場を単一のものとして捉えるマス・マーケティングは、成長期の工業製品市場において大いに機能しました。初期の自動車や家電製品に見られたように、単一商品の大量生産・大量流通は、価格の引き下げと安定的な供給を実現し、これらの財を一部の富裕層から一般庶民に普及させる原動力となりました。この段階では、消費者の求めるニーズは財の基本的な機能(自動車であれば移動手段、テレビであれば映像を通じた情報再現手段)が中心で、かつ多くの消費者に共通したものでした。そのため一品種であっても市場全体をカバーすることが可能だったのです。
その後の成長の終焉はニーズの多様化とあいまってマス・マーケティングの行き詰まりを明白にしました。消費者が基本機能に加えて、自分にふさわしい個性を求め始めたことから、単一商品ですべての市場をカバーすることは困難となり、また、市場調査が広く行われるようになったことで、消費者の指向は性別や年齢によってずいぶん違うことが明らかになりました。これらのことから、市場をいくつかのグループに分けて捉える市場細分化の手法が注目されるようになったのです。
分化型と集中型
細分化戦略は市場への対応方法により二分されます。細分化した上で、すべての市場へ対応しようとするのが「分化型マーケティング」であり、主にリーダー的企業が採用しています。自動車や腕時計のトップ企業は各市場にフィットした商品をきめ細かく投入することで、市場全体を捕捉しようとしています。
一方、細分化した市場のうち、一部に絞り込んで対応するのが「集中型マーケティング」であり、下位企業や新規参入企業が主に採用しています。高級車市場に限定した海外メーカーや若年層市場に特化した腕時計メーカーなどの戦略がその好例といえます。