第5章 価格設定と価格管理

[コラム ー価格こぼれ話ー 魔法の消しゴムの価格はいくら?]

ものの価格を決めるという行為は、マーケティング活動全体の成否に直接大きな影響を与えます。それが売れるかどうかは、「価格をいくらにするか」で決まってしまうと言っても過言ではないのです。
 ところが、マーケッターにとって、価格の決定ほど難しいことはありません。
 例えば、ある消しゴムの値段について考えてみましょう。A社はその技術力を最大限に発揮して、鉛筆の線だけでなく、どんなインクでもきれいに消すことのできる画期的な消しゴムの開発に成功したとします。しかも製造コストは従来の消しゴムと同じくらいに抑えることができました。ごく一般的な消しゴムの希望小売価格を100円とすると、この“魔法の消しゴム”はいくらにすればいいでしょうか?
 あるマーケッターは「画期的な商品だから大きな需要が見込める。市場浸透価格政策を採って、一気にシェアを拡大しよう」と、100円の定価設定を主張しました。差別化された機能を考えれば、消費者にとって割安感もある、という考えです。
 もうひとりは「いや、これはもう従来の消しゴムの概念では捉えられない。定価200円でもじゅうぶん消費者にその商品価値を訴求することができるはずだ」と断言しました。
 さあ、どちらが正しいのでしょう。
 残念ながら、この問いに答えはありません。100%成功に導く価格設定の方程式は今のところ、存在しないのです。できる限りの情報と経験を統合し、科学的な判断によって成功の確率を高めるしかありません。それがマーケッターの仕事です。
 ひとつだけ、はっきりして言えるのは、商品の適正な価格を決めることができるのは「消費者」という、それ自体が自発性をもった存在だということです。マーケットの動きは宇宙や深海同様、未だ人知の及ばざるナゾに満ちた存在なのです。
 “魔法の消しゴム”ができるころには、少しは解明が進んでいるでしょうか。