第9章 広告と広報活動
[コラム] ―広告こぼれ話― 人の心理をゆさぶる広告メッセージとは
マーケティング諸活動の中で、広告は生活者への重要なコミュニケーション活動であり、広告の累積効果が企業・組織やブランド・イメージに大きく影響していることは周知の事実です。広告表現、広告媒体の両効果は車の両輪にたとえられますが、GRP信仰に代表されるように、広告効果を論じる際、物量的な側面での効果測定に重きが置かれやすいということも事実です。しかし、日々提供されている広告に目を移してみると、出稿量は多くなくともアピール力のある広告は、その効果が十二分に発揮されているというケースも少なくありません。
心理学実験に、人は“目立つ”事象が重なることで、その事象自体を過大評価し、認知的なバイアスをかける傾向があることが実証されています。目立つ広告は、たとえ接触頻度が少なくとも多く接触したような錯覚を覚えるというわけです。また、人間の情報処理過程で情緒的・感情的な処理がどのようになされるかによって、対象に対する態度が異なったものになることも示されています。
ある研究は、広告が接触者を宣伝商品に引き付ける力=広告インパクトバリューは、〈親密感〉〈素直に受容できる・感性にフィットする〉〈統一感・カラーを感じる〉という表現面の3つの潜在因子によって導かれ、広告インパクトの大きさが使用意向率や購入意向率の高低を規定するという因果関係の説明を試みています。中でも、〈素直に受容できる・感性にフィットする〉因子の高さが広告インパクトの強さに最も寄与することを、この研究は示していました。
次々と新しい感性を発信し続ける広告という世界において、質的インパクトの構造自体、常に変化するものとみるべきです。それと同時に、広告に求められる目的も多様化する中、人の心理をゆさぶる広告メッセージは、いつの時代にあっても物理的・客観的な事実をもゆるがすことを踏まえ、広告バリューを再確認する作業が必要であるといえます。